待ちに待ったモルモットのお迎え当日。私たち人間にとっては「待ちに待った幸せな日」ですが、モルモットにとっては「知らない世界に放り込まれた日」。
すぐにでも抱っこして遊びたい気持ちはよくわかりますが、モルモットにとっては環境が激変し、不安と緊張でいっぱいの状態です。
この1週間は、いわば「信頼という土を耕す時間」です。
愛情を与えるよりも先に、安心を与える。
抱っこするよりも先に、怖くない存在になる。
この静かな一週間こそが、あなたとモルモットの関係を一生支える“土台”になります。
- お迎え後、最初の1週間に飼い主がすべきこと・すべきでないことが日を追って具体的にわかる
- モルモットに恐怖ではなく安心を与えるための、静かで優しい接し方のコツが身につく
- 「声のかけ方」や「匂いの慣らし方」など、触れずに信頼関係の土台を築くための具体的なステップが学べる
- お迎え直後にありがちな「食べない・飲まない」といったトラブルへの正しい対処法がわかる
- 焦る気持ちを落ち着かせ、モルモットのペースに寄り添うことの大切さを理解し、一生続く信頼関係の第一歩を踏み出せる
飼い主自身の心の整え方(=飼い主が先に“慣れる”こと)
多くの飼い主さんは、お迎え直後に「どうすればこの子を早く慣らせるか」と考えます。
でも、少しだけ視点を変えてみてください。
先に慣れるべきは、モルモットではなく、私たち飼い主のほうです。
モルモットは私たちの動作の速さ、視線の向け方、声の高さ、呼吸のリズム――
そのすべてから“感情の温度”を読み取ります。
飼い主が落ち着けば、モルモットも落ち着きます。
飼い主が焦れば、モルモットも身構えます。
つまり、信頼関係を築く最初の一歩は、「この子を慣らす」ことではなく、
「自分がこの子の世界に慣れる」ことなのです。
この1週間で行うことは、「関係を育てる」というよりも「関係を感じ取る」こと。
どのくらいの距離なら安心か、どのくらいの声量なら落ち着くか。
その“見極めの感性”を磨くのが、飼い主にとっての最初の学びです。
飼い主が自分のリズムを整え、静けさを受け入れるほど、
モルモットは「この人は安全だ」と理解していきます。
焦らず、比べず、整えていく。
それが、ほんとうの意味での“慣れる”です。
お迎え後の最初の1週間で大切なこと
モルモットは群れで生きる 被捕食動物です。
自然界では常に外敵を警戒して暮らしており、
環境変化や大きな音、人の接近に対して過敏に反応します。
そのため、「可愛がる」よりも先にすべきことは、
“怖がらせない” ことです。
【1~2日目】静かに待つことの大切さ
― まずは“存在に慣れる”期間 ―
到着した初日は、モルモットにとって心身ともに大きな負担です。
多くの子はハウスにこもり、微動だにしなくなります。
しかしこれは「心を閉ざしている」のではなく、「安全を確認している」時間です。
飼い主の行動チェックリスト
まずはお世話を最低限にし、ケージを覗き込んだり、むやみに触ったりせず、そっとしておきましょう。
- ケージの中を覗き込まない
- 話しかける時間は1日2回・短時間
- ごはんと水を静かに交換(短時間で速やかに)
- 夜間の音量を落とし、照明は常夜灯のみ
- 家族全員で囲まない
多くのモルモットは初日はハウス(隠れ家)にこもりっきりになりますが、モルモットが姿を見せなくても「餌が減っている」「排泄がある」なら順調です。
まったく動かないように見えても、夜間に活動していることが多く、
人の目を避けて行動しているだけなのです。
【3~4日目】声や匂いに慣らす工夫
この時期になると、モルモットは「この環境で自分は大丈夫」と理解しはじめます。
ここで重要なのは、“直接触れないコミュニケーション”です。
モルモットが少し落ち着いてきたら、ケージの外から優しく名前を呼んでみましょう。飼い主さんの声と匂いを覚えてもらうのが目的です。怖がらせないように、まずは声をかけるだけ。食事のタイミングで声をかけると、「この声が聞こえると美味しいものがもらえる」と学習しやすくなります。
声を使う
- 餌や水の交換時に「○○ちゃん、ごはんだよ」と優しく呼ぶ
- 声の高さは一定で、静かに
- 他の家族も同じ呼び方・同じトーンを使う
音の高さや速さが変わると、モルモットには「警戒音」として聞こえる場合があります。
トーンの一貫性=安心です。
匂いを使う
モルモットは、声よりもまず匂いで人を記憶します。ですから、自然な自分の匂いを覚えてもらうことが重要です。
・手をぬるま湯で洗い、石鹸やハンドクリームを使わず完全に乾かす
・手をこすって体温を移してから、ケージの外で静止
・手をケージに入れず、空気に匂いを馴染ませる
・香料や柔軟剤の残り香にも注意(衣服の匂いも強い刺激になる)
これが、最初の「自己紹介」です。
モルモットは嗅覚で、あなたが“昨日と同じ人”であることを認識していきます。
動物園などで群れ飼育を行う際、担当者は「香水・制汗剤・ハンドクリーム」などをすべて禁止されています。
理由は単純で、動物が“個体識別”を匂いに頼っているからです。
これは家庭でもまったく同じです。
補足:家族でお世話をする場合
- 担当を決め、声・動作・時間帯を統一する。同じ人が世話を継続すると早く慣れる
- 世話を交代でする場合は、同じ香り・同じ声の高さを意識
- 兄弟喧嘩、夫婦喧嘩などの“人間の緊張感”は、モルモットにも伝わる
人間関係の雰囲気まで感じ取るほど、モルモットは繊細です。
【5~7日目】初めてのコンタクト
5日目以降になると、モルモットが餌の音や声に反応して顔を出すようになります。
この頃から、「食べ物を介した信頼作り」を始めましょう。
ケージ越しに、好物の野菜(レタスやニンジンなど)をそっと手から差し出してみましょう。最初は警戒してすぐに隠れてしまうかもしれませんが、根気よく繰り返すことで、「この手は安全で、美味しいものをくれる」と認識してくれます。食べてくれたら、優しく頭や首筋を撫でてみましょう。
ステップ1:手からのおやつ
- 好物の野菜を1日1回、手からそっと差し出す
- 近づかなくても問題なし。「自分のペースで選べる」ことが信頼の種
- 食べてくれたら静かに「いい子だね」と声をかけて終了
※逃げた場合は追わずに終了。待つことが成功の条件です。
ステップ2:撫でる練習
- 食事中にそっと首筋や背中をなでる
- 1秒でも逃げなければ大成功
- 翌日、同じ時間・同じ言葉で繰り返す
- 驚いたら即中断。翌日また最初から
この「同じ時間・同じ声・同じ手」で行うことがポイントです。
モルモットは記憶力が高く、「パターン認識」で学びます。
“この時間に、この声で、この人が来る=安心”という予測が立つと、
不安ホルモン(コルチゾール)の分泌が減少します。
食べない・飲まないときの対応
多くの新入りモルモットは、最初の48時間ほとんど食べません。
この時期に「食べさせよう」と無理をすると、逆効果。
まずは「静けさ」を優先してください。
ストレスが原因の場合
- 初期の2〜3日間、食欲が落ちるのは自然な反応です。
- 無理に食べさせず、静かに待ちましょう。安心すれば自然と食べ始めます。
- 夜間に牧草が減っていれば問題ありません。
餌の変化に注意
- 迎える前に、ブリーダー・ショップで「食べていた銘柄」を確認
- 同じものを3〜5日継続し、その後徐々に切り替え
病気のサイン
- 体温が下がる(触ると冷たい)
- 便が出ない・軟便が続く
- 呼吸が荒い/体が傾く
これらは病気の可能性も考えられるため、すぐに動物病院に相談してください。
受診時には、排泄物と食べ残しを持参すると診断がスムーズです。
注意点:焦りは禁物
― 「慣れる速度」は十匹十色 ―
慣れるまでの期間は個体差が大きく、数日で慣れる子もいれば、数ヶ月かかる子もいます。
重要なのは「進歩の速さ」ではなく「安定の継続」です。
焦りを感じたら深呼吸を。モルモットは飼い主の緊張をそのまま受け取ります。
飼い主が「結果を急がない」こと。
そして、毎日同じ行動を繰り返すこと。
動物にとって予測可能な日常は、何よりも安心です。
焦らず、モルモットのペースを尊重することが、深い信頼関係を築くための最も大切なポイントです。
見えないサインを感じ取る
毎日の健康チェックポイント
- 牧草を噛むリズムが一定
- 体を小刻みに震わせない
- 毛づくろいをしている
- ケージに近づくと軽く鳴く
これらはすべて「リラックスのサイン」です。
逆に、背中を丸めて動かない、歯ぎしり音を立てる場合は不調の兆候です。
ルモットの心の変化を感じ取る3ステップ
- 気配に反応しなくなる(慣れの初期)
- 飼い主の動きを目で追う(興味)
- 鳴き声や足音に反応して出てくる(信頼)
飼い主自身の心の整え方
「もっと早く仲良くなりたい」と思うのは当然です。
しかし、その焦りを感じ取るのもまたモルモットです。
- 世話を“義務”ではなく“観察の時間”と捉える
- 「今日はここまでできた」と小さな進歩を記録する
- 自分たちも“静けさを楽しむ力”を育てる
飼い主の心が穏やかであることが、モルモットにとって最高の環境です。
沈黙の優しさが、信頼に変わる
モルモットは、声よりも静けさを、手よりも気配を感じ取る動物です。
あなたが何もせず、ただ静かに見守る時間こそが、彼らにとって最大の愛情表現です。
1週間を終える頃、あなたの足音に反応してハウスから顔を出す瞬間が訪れるでしょう。
それは“もう怖くない”というサイン。
その瞬間、あなたとモルモットの「信頼の第一章」が始まります。
