繁殖の準備が整い、無事に交尾が成功したら、いよいよ新しい命の誕生を迎える期間に入ります。妊娠中の母モルのケアから、出産の兆候、そして生まれた赤ちゃんの世話まで、飼い主さんが知っておくべきことはたくさんあります。安心してその日を迎えられるよう、出産と育児の基本的な流れを解説します。
💡この記事でわかること
- 体重増加や見た目の変化など、妊娠の兆候を早期に察知する方法がわかる
- 妊娠中の栄養管理、運動、ストレス対策など、母体を健康に保つための具体的なケア方法が学べる
- 出産が近づいた時の体や行動の変化を見抜き、落ち着いてその時を迎える準備ができる
- 出産直後の母子の観察ポイントや、育児放棄、圧迫死のリスクへの対処法がわかる
- 母体に致命的な負担をかける出産直後の「再妊娠」を確実に防ぐための知識が身につく
目次
妊娠の確認と妊娠中のケア
妊娠の確認
交尾成功のサインである「膣栓」が確認できたら、妊娠の可能性を視野に入れ、日々の観察を始めましょう。
- 体重測定: 最も確実な兆候は、定期的な体重の増加です。妊娠すると、最終的には普段の体重の2倍近くまで増加することもあります。
- 見た目や触診: 妊娠後期になると、お腹が大きく膨らみ、横から見るとまるで鏡餅のような体型になります。優しくお腹に手を当てることで、コリコリとした感触や胎児の動きを感じられることもあります。
- 病院での診断: 確実な診断のためには、動物病院でのレントゲン検査や超音波検査が必要です。胎児の数や大きさも確認できるため、一度は受診することをお勧めします。
妊娠期間と注意点
- 出産適齢期と骨盤癒合リスク:モルモットは生後7〜8ヶ月を過ぎると骨盤結合が硬化し、初産時に骨盤が開かなくなり難産・帝王切開のリスクが急上昇します。【注意】初産は6ヶ月齢までに済ませるのが望ましい。7〜8ヶ月を超えると骨盤結合が癒合してしまい、自然分娩が困難になります。
→私たちの実際の帝王切開の記録はこちら:体験記へのリンク - 妊娠期間: 約59日~72日(平均65〜68日)(約2ヶ月)。胎児の数が少ないと妊娠期間は長くなり難産のリスクが、多いと赤ちゃんが小さく生まれる傾向があります。
- 【重要】重複妊娠(二重妊娠)の回避: 妊娠中にも発情様行動を示すことがありますが、排卵や着床は妊娠により抑制されるため、実際の重複妊娠はほぼ起こりません。ただし、出産直後の「分娩後発情」による即時再妊娠が最も大きなリスクであり、これを確実に防ぐ必要があります。
妊娠中のケア
- 毎日の健康チェック: 食欲や飲水量が極端に減っていないか、排泄物の量や状態(下痢、血尿など)に変化がないかを毎日チェックします。
- 栄養管理: 通常時の2倍のビタミンCと、豊富なカルシウムが必要です。基本はチモシー主体を維持し、補助的にアルファルファを少量加えます。妊娠末期〜授乳期はカルシウム需要が上がるため、バランスを取りながら与えましょう。ただし、肥満は妊娠中毒症のリスクを高めるため、過剰な給餌は禁物です。
- 運動: 運動不足も妊娠中毒症の原因になります。ストレスにならない範囲で、部屋んぽなどをさせて適度な運動を促しましょう。実際に、多数のモルモットを飼育する動物園では、安産のために、わざと餌の場所を離れた位置に置き、母モルが自分で移動するよう運動を促すこともあるほどです。
- ストレスを避ける: 特に妊娠後期はストレスに敏感になります。ケージの移動や過度なハンドリングは避け、静かに見守る時間を大切にしましょう。ケージの掃除は清潔を保つ上で重要ですが、出産が近づいたら(予定日の1週間ほど前から)頻度を減らします。ただし、古い床材の全面交換の頻度をやや落とす一方で、汚れた箇所のスポット清掃は毎日行い、清潔と静寂を両立させるようにしましょう。頻繁な掃除は母モルにストレスを与え、落ち着いて出産・育児ができない原因になるためです。
- 【最重要】妊娠中毒症に気をつけて
妊娠後期(妊娠6週目以降)に、急激な食欲不振、元気消失、体重減少などの症状が見られたら、危険なサインです。 命に関わる妊娠中毒症(ケトン症)の可能性が非常に高いため、様子見をせず、直ちに動物病院を受診してください。
出産の流れと兆候
出産環境の最適化:動物園など大規模飼育施設では、以下のような工夫が行われています。
- 床材:細かいチップよりも、吸水性の高いペーパー系を厚めに敷き、赤ちゃんの滑落や冷えを防ぐ
- 温度管理:室温22〜25℃、湿度50〜60%を維持
- 同居制限:出産直前〜授乳初期は母子単独飼育を原則とし、他個体の接近を防止
出産前のサイン
出産が近づくと、母体にいくつかの変化が現れます。
- 出産前の場所選好:モルモットは明確な巣作りはほとんど行いませんが、静かな隅を選ぶ/床材を軽く寄せるなどの行動が強まることがあります。
- 食欲の波:出産前1〜2日は食欲が落ちることがよくあります。ただし完全に絶食状態になるのは異常(妊娠中毒症の初期症状の可能性)なので、「少しずつでも食べているか」を確認します。
- 排泄の変化:出産前になると、排尿・排便の回数がやや減り、糞が小さくなる傾向があります。これは胎児の圧迫による一時的な変化です。長時間の無排泄は要注意です。
- 他個体との距離の取り方:同居している他のモルモットを避けるようになったり、単独行動をとるようになります。安全・静寂を求める自然な行動です。出産が近いと感じたら母モルを単独ケージに移すのが理想です。
- 鳴き方の変化:普段より小声で「クックッ」「プププ」と鳴く回数が増える。痛みや不安というより、「まもなく出産に入る」合図であることが多いです。
出産前後に注意すべきサイン
- 息が荒く、鳴き続ける/苦しそうにしているのに子が出てこない:難産・胎児停滞の可能性。すぐに動物病院へ。60分以上陣痛が続いても出産がない場合は緊急です。
- 血が大量に出ている:子宮損傷・出血性ショックの可能性。直ちに受診。
- 陣痛の後に母体がぐったりして動かない:分娩疲労・妊娠中毒・低血糖など緊急状態。保温して搬送を。
出産
環境面の最終準備(出産1週間前から)
- ケージは静かで人通りの少ない場所に移動
- 床材は厚めのペーパー系チップに変更(吸水性・保温性)
- 巣材(チモシーや柔らかい牧草)を多めに用意
- 温度:22〜25℃/湿度:50〜60%を保つ
- ケージの上に布をかけて、落ち着ける半暗がり環境に
陣痛が始まると、数分~数十分おきに1匹ずつ、合計で1~6匹程度の子を産みます。出産にかかる時間は通常30分~1時間程度です。母モルは出産後、自分で赤ちゃんの羊膜を破り、へその緒を切り、栄養補給のために胎盤を食べます。
1. 母モルの育児と赤ちゃんの観察
- 観察の必要性: 出産直後は、母モルが赤ちゃんを舐めて体を綺麗にしたり、授乳したりする姿を遠くから静かに観察することが大切です。
- 分娩後の健康チェック:出産直後は胎盤の排出確認と、膣口からの出血・膿状分泌の有無を観察します。24時間以内に排便・排尿がない場合や、ぐったりしている場合はすぐに動物病院へ。
- 育児放棄のチェック: モルモットは育児放棄が比較的少ない動物ですが、特に初産の場合は、授乳しているか、赤ちゃんが母モルについていっているかなどを確認します。
- 赤ちゃんの特徴: モルモットの赤ちゃんは、生まれた時から目も開き、毛も生え、数時間後には歩き始めます。このため、他の小動物に比べて、一時的に母モルから離れていてもすぐに致命的になることは少ないですが、母乳は成長に不可欠です。
- 授乳期の母体管理:授乳期はエネルギー・カルシウム・ビタミンCの消耗が激しく、母モルが痩せやすくなります。授乳期は高栄養状態を維持するため、1日2〜3回に分けて新鮮な野菜と高品質ペレットを与えます。母乳の出を保つために、十分な水分補給と安静を確保してください。
- 赤ちゃんの離乳:生後1週間ほどで固形物を食べ始め、3週間前後で離乳が可能です。体重が200gを超えたら離乳の目安とします。オスは生後3週間で性成熟するため、早めに母子分離を行いましょう。
- 飼育記録の推奨:妊娠確認後からの体重・食欲・行動記録(日付付き)は、出産管理や異常早期発見に極めて有効です。動物園や研究施設では、これを「繁殖記録票」として定型化しています。一般家庭でも簡易的な記録を推奨します。
2. 圧迫死のリスクと対策
- 圧迫死について: 小さな動物の場合、親が誤って仔の上に乗ってしまう「圧迫死」のリスクが指摘されますが、体が大きく比較的穏やかなモルモットでは、他の小動物ほど頻繁には起こりません。
- 対策: しかし、初産で母モルが戸惑っている場合や、ケージが狭い場合はリスクが高まります。十分な広さのケージと、赤ちゃんが逃げ込める隠れ家(巣箱)を用意することが有効な対策になります。
3. ストレス対策と環境整備
- 静かな環境: 妊娠・出産後の母モルは非常に神経質になっています。人や他の動物の出入りが少なく、静かで安心できる環境を提供することが最も重要です。
- ケージに布をかける: ケージの上から布やタオルをかけて、暗く落ち着ける環境にし、そっと見守ることは、母モルのストレス軽減に非常に効果的です。ただし、通気性は必ず確保してください。
- 【最重要】過度な干渉の禁止: 心配だからといって頻繁にケージを覗き込んだり、可愛いからと赤ちゃんに素手で触ったりすることは、母モルの警戒心を極度に高め、かえって育児放棄につながる最大の原因になります。お世話は最低限にし、遠くから見守るに徹しましょう。
4. 再妊娠の回避
- 分娩後発情: メスは出産後わずか数時間で次の発情が来て、交尾すれば高い確率で妊娠します。 連続妊娠は母体に致命的な負担をかけるため、出産が終わった後も、最低2ヶ月はオスとメスを完全に隔離してください。
5. 人工哺育について
万が一、育児放棄が確認されたり、母乳の出が悪く赤ちゃんの体重が増えない場合は、人工哺育が必要になります。万が一の事態に備え、私たちの壮絶な人工哺育の全記録もぜひお読みください
(→ 詳しくは『モルモットの出産と人工哺育の記録』の記事へ)
