―― 最高の歯医者さんは、毎日の食卓です。
モルモットと長く幸せに暮らすために、歯のケアはケージの掃除や爪切りと同じくらい、とても大切な毎日のお世話です。
モルモットの歯は、前歯も奥歯も実は一生伸び続けます。この伸び続ける歯が、毎日の食事で自然に削られてバランスを保つことが、「不正咬合(ふせいこうごう)」という――ごはんが食べられなくなる深刻な病気――を防ぐための、何よりの鍵になります。
このガイドでは、モルモットの歯の不思議な仕組みから、今日からお家でできるケア、そして「あれ?」と思った時に見逃したくない危険なサインまで、分かりやすく解説します。
- モルモット特有の「前歯も奥歯も生涯伸び続ける」歯の仕組み
- 歯の健康を保つために一番大切なのは、牧草中心の毎日の食卓であること
- よだれ・食べこぼし・片噛みなど、命に関わる不正咬合のサインの見分け方
- 不正咬合は見えにくい奥歯から始まることが多いという大切なポイント
- 毎日の食事管理とちょっとした観察でできる、最も効果的な予防法
モルモットの歯の仕組み
モルモットの歯には、他の動物にはない3つの大きな特徴があります。
- ポイント①:前歯も奥歯も、全部伸び続ける!
モルモットの歯は合計20本すべてが生涯にわたって伸び続けます。一度生え替わって終わりではありません。 - ポイント②:大切なのは「すりつぶす」動き
モルモットの健康の要は食べ物を「横方向にすりつぶす」動きです。牧草のような長い繊維を、長時間「すりすり」と噛み続けることで特に見えにくい奥歯が均一に削られていきます。 - ポイント③:「硬いおやつ」だけではダメ!という大きな誤解
「歯のために硬いおやつをあげよう」と思いがちですが、実はこれだけでは不十分です。硬いものをガリガリと上下に噛むだけでは、奥歯全体が均等に削れず、かえって歯の表面にトゲ(スパー)や段差ができてしまうことがあります。
ここが大切!
モルモットの歯の健康は、「どれだけたくさんの牧草を、どれだけ長い時間かけて食べているか」で決まります。特別な道具よりも、毎日のごはん(特に牧草)と、それを食べる時間が何よりの歯のケアになるのです。
日常でできる歯のケア
不正咬合を予防する特別なことは必要ありません。毎日のごはんのルールを守ることが、最高の予防になります。
主食は繊維質の豊富な「牧草」を、いつでも食べ放題に
歯の健康のためには、硬いペレットを齧ることよりも、繊維質の多い牧草を長時間咀嚼することが何よりも重要です。モルモットは、前歯で牧草を噛み切り、奥歯ですりつぶすようにして食べます。この「すりつぶす」動きが、臼歯を適切に摩耗させる鍵となります。
- 24時間、絶対に切らさない:牧草入れは空っぽにしないでください。いつでも好きな時に食べられる環境が基本です。
- 「1番刈り」がおすすめ:春に収穫される「1番刈り」は茎が長くてしっかりしており、歯を削るのに向いています。2番刈りや3番刈りは柔らかくて美味しいですが、歯を削る効果は少し下がります。
- 置き場所を工夫する:牧草を置く場所を2か所以上にすると、食いしん坊な子1匹が独占しにくくなり、みんながゆっくり食べられます。
- 鮮度と香り:湿気やカビ臭のある牧草は使わない。乾いた良い香りが目安。
コツ:
食べやすさのために、1番刈りを基本にしながら2番刈りを少量ブレンドするのも現実的です。「食べる量=歯が削れる時間」です。
ペレット・野菜・おやつの正しい役割
- ペレット:あくまで栄養の補助です。全体の食事量の1割程度を目安にしましょう。ビタミンC入りを選ぶと良いです。
- 野菜:ビタミンCを補給するために、パプリカ(赤・黄)やブロッコリーの芯、小松菜などを少しずつ与えましょう。レタス類は主食にしないでください。
- おやつ:「歯に良い」と書かれた硬いおやつや乾燥パンは、毎日あげる必要はありません。笹の葉のような繊維が多いものは、たまのご褒美程度にしましょう。
ビタミンCを忘れずに
モルモットは人間と同じで、体内でビタミンCを作れません。ビタミンC入りのペレットと、新鮮な野菜で毎日補ってあげましょう。
モルモットは人間と同じで、体内でビタミンCを作れません。
- 目安:成獣で体重1kgにつき10〜30mg/日。体調や年齢で増減(心配なら獣医に相談)。
- 与え方:C入りペレット+Cを含む野菜で毎日補うのが基本。
- 注意:水にCを入れる方法は、味や匂いの変化で飲水量が落ちることがあり非推奨。どうしても使う場合は24時間以内に交換。
見逃したくない!歯のトラブル7つのサイン
以下のようなサインが見られたら、「様子を見よう」とは思わず、すぐに動物病院に相談してください。
- 食べたそうにするのに、ポロッと落とす:奥歯がうまく噛み合わず、すりつぶせていないサインです。
- よだれで口の周りがいつも濡れている:口の中の痛みや、歯のトゲが舌に当たっている典型的なサインです。
- 片方の頬だけが膨らんでいる、触ると嫌がる:奥歯にトラブルが起きている可能性があります。
- 牧草を避けて、ペレットの粉など柔らかいものばかり食べるようになる:硬いものが痛くて食べられないのかもしれません。
- 涙や目やにが増える:歯の根っこが伸びて涙の通り道を圧迫していることがあります。目の病気と間違えやすいですが、原因は歯かもしれません。
- フンが小さくなる、量が減る:ごはんを十分に食べられていない証拠です。
- お腹が張って、元気がなくなる:食べられないことで胃腸の動きが悪くなっています。これは非常に危険な状態です。
こんな時は、すぐに病院へ!
- よだれがひどい、口元が常に濡れている
- ごはんを食べたがらない、食べられない
- 急に体重が減った(数日で1割以上)
- お腹がパンパンに張っている、じっとして動かない
迷ったら受診 ―病院ではどんなことをするの?
もし不正咬合になってしまっても、適切な処置で痛みを取り除くことができます。
- 診察:専用の器具で口の中を奥まで詳しく見て、必要に応じてレントゲンで歯の根っこの伸び具合などを確認します。
- 処置:伸びすぎたりトゲ状になった歯を、専用の電動器具で優しく削って形を整えます。(※家庭用の爪切りなどで前歯を切るのは絶対にダメ。割れて痛みが強くなったり、折れてもっと食べられなくなる危険があります。)
- お薬とごはんのサポート:痛みを和らげるお薬を処方したり、自分で食べられるようになるまで、高繊維の粉末フードを溶かして与える「強制給餌」を行います。
一度不正咬合になってしまうと、定期的な処置が必要になることもあります。だからこそ、日々の予防が本当に大切です。
週1の“かんたん健康チェック”(5分でOK)
- 体重:同じ時間・同じ条件で週1回。50g単位で管理。
- 口元・顎の下:濡れやベタつきがないか。
- 便:数と大きさ。小さくなる・減るは要注意。
- 食べ方:片方だけで噛む/やたら長い/ポロッと落とすなどの変化。
- 牧草の減り:昨日より明らかに減らない日は、食欲や口の痛みのヒント。
まとめ ―― 最高の歯医者さんは、毎日の食卓です
モルモットの歯を守る一番の方法は、特別なことではありません。
「たくさんの繊維質の牧草を、毎日、長い時間かけて食べられる環境」を用意してあげること。
そこにビタミンC、ちょっとした観察、そして早めの相談が加われば、歯のトラブルは大きく減らせます。
牧草・時間・観察――この3つが、お家でできる最強の歯のケア。
「いつもと少し違うな?」に気づくあなたの目が、いちばんの予防です。
「いつもとちょっと違うな?」という小さなサインに気づいてあげることが、あなたのモルモットを痛みから救う一番の近道になります。
付録:やってよいこと/いけないこと(早見表)
◎ やってよい
- 牧草(1番刈り中心)を24時間切らさない
- 牧草の置き場所を2か所以上に
- 週1回の体重・口元・便チェック
- 毎日のビタミンC(体重1kgあたり10〜30mg/日)
- 異変に気づいたら早めに受診
× いけない
- 家庭用の爪切りで前歯を切る
- 塩・ミネラルリックを常設する
- 「固いおやつ」で歯やすりを期待する
- 自己判断の鎮痛剤を与える
- 牧草を食べないからと野菜・ペレットへ置き換える
