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食事ガイド|ライフステージ別の牧草・ペレット・与え方

モルモットは、その愛らしい姿とは裏腹に、非常に繊細な消化器官と、生涯伸び続ける特殊な歯を持っています。彼らの健康は、私たちが毎日与える「食事」によって、その9割以上が決定されると言っても過言ではありません。食事管理は、単なる栄養補給ではなく、病気を予防し、彼らのQOL(生活の質)を最大限に高めるための、最も重要で愛情深いコミュニケーションなのです。

皆様が安心してモルモットの食事管理に取り組めるよう、本ガイドがお役に立てれば幸いです。

💡この記事でわかること
  • モルモットの食事で絶対に守るべき3つのルールがわかる
  • 年齢(ベビー/大人/シニア)に合わせた最適な食事プランがわかる
  • 病気を予防し、健康寿命を延ばすための具体的な食事管理術がわかる
  • 牧草やペレットの正しい選び方と与え方がわかる
  • 食事から読み解く体調不良のサインと緊急時の対処法がわかる
目次

第1章:揺るぎない健康の礎、3つの黄金律

モルモットの食事管理は、これからお話しする3つの「黄金律」を理解することから始まります。この3点を守ることが、彼らの健康を守る上での絶対的な土台となります。

【黄金律1】主食は「牧草」。24時間365日、いつでも食べ放題に

これが最も重要かつ、絶対に譲れない原則です。モルモットにとって牧草は、単なる食べ物以上の意味を持ちます。

  • 生涯伸び続ける歯を削る、唯一無二のデンタルケア
    モルモットの歯(特に奥歯)は、人間の爪のように生涯にわたって伸び続けます。彼らは、牧草の硬い繊維を長時間「すりつぶす」ように咀嚼することで、歯を適切な長さに摩耗させています。この働きが不足すると、歯が伸びすぎて噛み合わせが悪くなる「不正咬合(ふせいこうごう)」という、死に至る可能性のある深刻な病気を引き起こします。不正咬合になると、痛みで食事がとれなくなり、急激に衰弱してしまいます。
  • 繊細な消化管を動かし続ける、生命の燃料
    モルモットの長い消化管は、常に牧草の繊維が送り込まれることで正常な動き(蠕動運動)を保っています。食事の間隔が空きすぎると、消化管の動きが鈍くなる「胃腸うっ滞(いちょううったい)」という、これまた命に関わる危険な状態に陥ります。うっ滞は急激に悪化することが多く、半日食欲がないだけでも緊急事態となり得ます。
  • 心を落ち着かせる、最高のエンターテイメント
    モルモットは1日に約8〜10時間を採食に費やします。牧草を自由に探し、選び、食べるという行為は、彼らの本能的な欲求を満たし、ストレスを軽減させるための重要な役割を担っています。ケージの中でいつでも牧草を食べられる環境は、彼らにとって最高の安心感につながるのです。

【実践方法】
牧草は、ケージ内の床面積の半分以上を埋めるほど、たっぷりと与えてください。「食べ放題にしたら太ってしまうのでは?」と心配されるかもしれませんが、牧草は低カロリー・高繊維ですので、その心配はほとんどありません。

衛生的に保つための牧草フィーダーと、自然な姿勢で食べられる床置きを併用するのが理想的です。特に、汚れた牧草は食欲低下の原因になるため、毎日朝晩2回、食べ残しやフンで汚れた部分を取り除き、その上に新しい牧草をふんわりと一掴み追加してあげましょう。新しい香りが食欲を刺激します。

【黄金律2】ペレットは「栄養調整食」。主食の座を奪わせてはいけない

ペレットは牧草だけでは不足しがちなビタミンやミネラルを補うための非常に優れた「栄養調整食」です。しかし、その役割を正しく理解する必要があります。

  • なぜ「補助」なのか
    ペレットは栄養価が高く、モルモットが好む味に作られているため、与えすぎると簡単にお腹がいっぱいになってしまいます。その結果、最も重要な「牧草」を食べる量が減ってしまい、前述した歯の摩耗や消化管の運動に深刻な支障をきたす原因となります。多くの飼い主様が陥りがちなのが、この「ペレットの与えすぎ」です。
  • ペレット選びの5つの基準
    1. 「モルモット専用」かつ「ビタミンC強化」の表記があること。
    2. 成体には、原材料表示の最初に「チモシー」が記載されているもの。
    3. 成分表示の「粗繊維」が18%以上、「粗脂肪」が3%以下のもの。高繊維・低脂肪が基本です。
    4. 穀物(小麦、トウモロコシ等)や糖分、着色料が使われていない、シンプルな原材料のもの。
    5. 種子やドライフルーツなどが混ざった「ミックスフード」は絶対に避けてください。好きなものだけを選んで食べる「偏食」を助長し、深刻な栄養の偏りを引き起こします。
  • 与える量と時間
    1日の給与量は、体重の1.0%〜1.5%を目安にしてください。(例:体重1kgのモルモットなら1日10g〜15g)。これを朝と夜の2回に分けて与えるのが理想です。決まった時間に与えることで生活リズムが整い、モルモットも食事の時間を心待ちにするようになります。

【黄金律3】ビタミンCは命綱。食事から毎日必ず補給を

人間やサルと同じように、モルモットは体内でビタミンCを合成することができません。そのため、毎日必ず食事から摂取する必要があります。

  • ビタミンCが不足するとどうなるか
    ビタミンCが欠乏すると、コラーゲンの生成が滞り、「壊血病(かいけつびょう)」という病気を発症します。具体的には、歯茎からの出血、関節の腫れや痛みによる歩行異常、毛艶の悪化、免疫力の低下による感染症など、全身に深刻な症状が現れます。
  • 効果的な補給方法
    補給源は「ビタミンC強化ペレット」と「新鮮な野菜」の2本柱です。健康な成体で1日に10〜20mg/kg、成長期や妊娠・授乳期、病中病後の個体ではその2倍程度の量が必要とされます。
    例えば、ビタミンCが豊富な赤ピーマンなら、1cm角を1〜2切れ程度で1日の必要量を補うことができます。
    なお、水に溶かすタイプのビタミンCサプリメントは推奨しません。光や時間で容易に劣化して効果が失われる上、正確な摂取量を管理できず、給水ボトルの衛生悪化にもつながるためです。

第2章:主食「牧草」を極める

牧草はモルモットの食事の根幹です。その種類と特性を理解し、モルモットの好みや年齢に合わせた最適な選択をしましょう。

【基本の牧草:イネ科】

  • チモシー(Timothy-grass)
    最も標準的で、健康な成体の生涯にわたる主食となる牧草です。繊維質が豊富で、歯と消化管の健康維持に最適です。収穫時期によって「刈り時」が分かれています。
    • 一番刈り: 春に収穫される最初の牧草。茎が太く、最も繊維質が豊富です。歯の摩耗効果が最も高く、健康な成体の主食として理想的です。
    • 二番・三番刈り: 夏から秋に収穫される、再生した葉の部分が中心。一番刈りより柔らかく、香りが良いのが特徴です。食欲が落ちた時や、噛む力が弱くなった高齢期に、一番刈りに混ぜて与えると良いでしょう。
  • その他のイネ科牧草
    チモシー以外にも、様々な選択肢があります。チモシーに飽きてしまった場合や、飼い主様がチモシーアレルギーの場合などに試してみる価値があります。
    • オーチャードグラス: 柔らかく甘い香りが特徴で、嗜好性が高い牧草です。
    • オーツヘイ: 穂先がついており、香ばしい香りがします。他の牧草と混ぜて与えると食欲増進につながることがあります。
    • クレイングラス: 低カロリーで繊維質も豊富なため、ダイエット中の個体にも適しています。

【特別な牧草:マメ科】

  • アルファルファ(Alfalfa)
    タンパク質とカルシウムを非常に豊富に含む、嗜好性の高い牧草です。栄養価が高すぎるため、健康な成体に日常的に与えるのは避けるべきです。過剰なカルシウムは尿路結石のリスクを高めます。
    • 用途: 用途を限定して使用します。具体的には、急速な成長のために高栄養を必要とする「生後6ヶ月までの幼体期」や、「妊娠・授乳期の母体」、獣医師の指示のもとで「体重を増やす必要がある場合」などです。
    • 与え方: 幼体期であっても、アルファルファを主食にするのは危険です。これに慣れるとチモシーを食べなくなる「偏食」の原因になります。あくまで主食はチモシーとし、アルファルファは少量混ぜる「ふりかけ」のような感覚で与えるのが賢明です。

【牧草の保管方法と注意点】

牧草の敵は「湿気」「直射日光」「高温」です。これらは風味を損なうだけでなく、カビやダニの発生原因となります。

  • 保管場所: 開封後は袋の空気をしっかり抜き、密閉して、風通しの良い冷暗所で保管してください。
  • 購入量: 1〜2ヶ月で使い切れる量を購入するのが、常に新鮮なものを与えるためのコツです。
  • 硬い牧草を食べない場合: 一番刈りの硬い茎を残すのは、よくあることです。まずは二番刈りなどを混ぜて様子を見ますが、長期間にわたって硬いものを避ける場合は、単なる「わがまま」ではなく、歯に問題(不正咬合)が隠れている可能性を疑うべきです。真っ先に、モルモットの診療に詳しい動物病院で口の中を診てもらうことを強く推奨します。

第3章:ライフステージ別・最適な食事プラン

モルモットも年齢によって必要とする栄養が変化します。それぞれのステージに合わせた食事管理を行いましょう。

【幼モル期(生後~6ヶ月):成長の土台を築く大切な時期】

  • 目標: 丈夫な骨格と筋肉を形成し、生涯にわたる健康的な食習慣を身につけさせる。
  • 牧草: 主食はチモシー(一番刈り)を24時間食べ放題にします。その上で、成長をサポートするために栄養価の高いアルファルファを少量、チモシーに混ぜて与えます。
  • ペレット: この時期はアルファルファが主原料の「成長期用(グロース)」ペレットを選択できます。ただし、生後6ヶ月を目安に、後述の成体用ペレットへ徐々に切り替えていきます。
  • 野菜: 偏食を防ぐため、安全な野菜を少量ずつ、種類を試しながら与え、様々な味や食感に慣れさせることが重要です。

【成人モル期(6ヶ月~5歳):健康を維持し、安定させる時期】

  • 目標: 確立された健康状態を安定して維持する。
  • 牧草: 繊維質が豊富なチモシー一番刈りを主食とし、いつでも十分に食べられる状態を維持します。
  • ペレット: チモシーが主原料の「成体用(メンテナンス)」ペレットに完全に切り替えます。給与量は体重の1.0%〜1.5%を厳守し、体型や活動量に応じて微調整します。
  • 野菜: ビタミンC補給源として、毎日欠かさず与えます。

この時期は、その子の「健康な平常時」の体重、フンの状態、食欲などを飼い主様が正確に把握しておくことが、将来の異変を早期に発見するための鍵となります。

【老モル期(シニア期 / 5歳~):変化に寄り添い、生活の質を保つ時期】

  • 目標: 加齢による身体の変化に配慮し、QOL(生活の質)と体重を維持する。
  • 牧草: 噛む力や消化機能が低下してくることがあります。主食はチモシー一番刈りのままですが、硬い茎を食べ残すようなら、二番刈りなどの柔らかい牧草を2〜3割混ぜて、採食量を維持できるよう工夫します。
  • ペレット: 体重が減少しやすくなるため、注意深く観察し、必要であれば給与量を微調整します。一度に多くを食べられない場合は、1日の量を3〜4回に分けて与えるのも良い方法です。ペレットをお湯でふやかして与えるのも効果的です。
  • 介護食: 食欲が著しく低下し、自力で固形物を食べられなくなった場合は、強制給餌が必要になります。ふやかしたペレットをすり潰したものや、市販の草食動物用流動食をシリンジ(針のない注射器)に入れ、口の横から少しずつ与えます。これは誤嚥(ごえん)の危険も伴うため、必ず獣医師の指導のもとで行ってください。
  • 細やかな観察: 「食べる速度が遅くなった」「食べこぼしが増えた」「口の周りが濡れている」といったサインは、歯のトラブルや体調不良の重要な兆候です。高齢期は特に、こうした小さな変化を見逃さないことが重要です。

第4章:言葉を話せない家族からのSOS、日々の健康チェックリスト

モルモットは、野生下で捕食される動物だった名残から、体の不調をギリギリまで隠す習性があります。飼い主様が日々の観察を通じて、小さな変化に気づいてあげることが、病気の早期発見・早期治療に直結します。

【最重要チェック項目:体重・フン・食欲】

  • 体重:最も客観的な健康指標
    • 測定頻度: 健康な成体は週に1回、高齢期や療養中は週に2〜3回、決まった時間に測定します。
    • 危険サイン: 1週間で50g以上の体重減少は要注意信号です。100g以上減少した場合は、深刻な事態と考え、直ちに動物病院を受診してください。
  • フン:お腹の調子を伝えるメッセージ
    • 正常なフン: 均一な俵型で、適度な硬さとツヤがあります。
    • 危険サイン: フンの大きさが不揃い、小さくなる、量が減る、形が涙滴状になる、といった変化は、食欲不振や消化管の機能低下を示します。軟便や下痢はもちろん異常です。
    • 盲腸便について: ブドウの房状の柔らかいフンを、お尻から直接食べる「食糞(しょくふん)」は、一度排出した栄養素を再吸収するための正常な行動です。しかし、これがケージ内に多数落ちている場合は、ペレットの与えすぎによる栄養過多や、肥満でお尻に口が届かない、口が痛くて食べられない、などのサインかもしれません。
  • 尿:泌尿器系の状態を知る手がかり
    • 正常な尿: モルモットは余分なカルシウムを尿中に排泄するため、尿が白く濁ったり、乾くと白い粉が残ったりするのは正常な範囲です。
    • 危険サイン: 毎回クリームのように濃い尿が出る、排尿時に痛そうに鳴く、血尿(ピンク色や赤色)が見られる場合は、膀胱炎や尿路結石の疑いがあります。

【緊急事態!直ちに動物病院へ】

以下の症状は、命に関わる「胃腸うっ滞」や「鼓腸症(こちょうしょう)」などの典型的なサインです。様子を見ずに、夜間であっても、すぐにモルモットを診療できる動物病院に連絡してください。

  • 12時間以上、何も食べていない
  • フンが全く出ていない
  • ケージの隅でうずくまり、体を膨らませて動かない
  • お腹がパンパンに張っている
  • 歯ぎしりをしている(痛みのサイン)
  • 呼吸が速く、苦しそう

【予防医療という最高の贈り物】

症状が出てから病院に行くのではなく、健康なうちから定期的に健康診断を受けることが、愛するモルモットの健康寿命を延ばす最善の方法です。半年に一度、少なくとも一年に一度は、モルモットに詳しい獣医師の診察を受けましょう。家庭では確認できない奥歯の状態をチェックしてもらうことは、不正咬合の予防に不可欠です。

健康な時の体重や歯の状態をかかりつけの病院に記録しておいてもらうことで、いざという時に比較できる「その子の基準値」となり、診断と治療の精度が格段に上がります。

第5章:食事内容の変更を安全に行う方法

牧草やペレットの種類を変える際は、モルモットの繊細な腸内環境に配慮し、時間をかけて慎重に行う必要があります。

食事内容を急に変えると、腸内細菌のバランスが崩れ、下痢や食欲不振を引き起こすことがあります。新しい食べ物に腸内細菌が適応する時間を与えるために、最低でも1〜2週間かけてゆっくりと移行させましょう。

【ペレットの安全な変更プラン(2週間コース)】

  • 1日目~4日目: 今までのペレット8割に対し、新しいペレットを2割混ぜる。
  • 5日目~8日目: それぞれを5割ずつ混ぜる。フンの状態を注意深く観察してください。
  • 9日目~12日目: 今までのペレット2割に対し、新しいペレットを8割に増やす。
  • 13日目以降: 新しいペレットを100%にする。

この過程で少しでも軟便などが見られたら、前のステップの割合に戻し、数日間様子を見てください。焦らず、その子のペースに合わせることが成功の鍵です。

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