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動物病院ガイド|受診の目安・持ち物・診察後のケア

「モルモットの様子がいつもと何かが違う…」
その小さなサインに気づいた時、飼い主である皆さんの的確な判断と迅速な行動が、その子の運命を左右します。
このガイドは、どんな方でも落ち着いて最善の行動が取れるよう、病院へ行くべきタイミングから、診察後のケア、そして未来の健康管理までを、具体的かつ丁寧に解説した実用ガイドです。いざという時のために、ぜひご家庭の本棚に、そして心に備えておいてください。

💡この記事でわかること
  • 「今すぐ救急」「早めに受診」など、モルモットの症状から受診の緊急度を判断するための具体的なチェックリスト
  • 獣医師に症状を正確に伝え、診断の精度を上げるための「完璧準備リスト」(メモ・持ち物・電話のかけ方)
  • 体調が悪いモルモットのストレスを最小限に抑えるための、キャリーでの安全な移動方法温度管理のコツ
  • 処方された薬を嫌がる子に確実に飲ませるための投薬のコツと、食欲がない時の強制給餌の注意点
  • 「様子見」が命取りになる理由を理解し、飼い主として自信を持って、迅速かつ的確な判断と行動
目次

第1章|見逃さないで!受診のタイミングを見極める「緊急度チェックリスト」

モルモットは弱っている姿を隠す天才です。以下のリストを使って客観的に状態を判断しましょう。

🔴 赤信号:今すぐ病院へ!ためらってはいけない救急のサイン

一つでも当てはまれば、診療時間外でも救急病院に連絡・相談してください。
【食欲・排泄】6〜8時間以上、全く何も食べない/フンが全く出ていない、または糸のように細い。
【お腹】お腹が風船のようにパンパンに張る、軽く触れても硬い、痛がって鳴く。※叩いたり強く押したりはしない。
【呼吸】呼吸が速い、お腹や肩で大きく息をしている、口を開けて苦しそうに呼吸している。
【様子】ぐったりして動かない、呼びかけへの反応が鈍い、失神やけいれんを起こした。
【その他】持続する下痢や血の混じった便、血尿、排尿時に痛そうに鳴く、明らかな外傷や出血。

🟡 黄信号:今日か明日に!注意深く観察し、早めに受診を

診療時間内に電話で相談し、獣医師の指示を仰ぎましょう。
【食欲】食欲が普段の半分以下に落ちている、好きなものしか食べない。
【お腹の状態】お腹を触ってもパンパンではない(柔らかい)のに、食欲がない、またはフンが少ない。
【口元】よだれで口の周りや前足の内側が濡れている(不正咬合のサイン)。
【様子】首が傾いている(斜頸)、同じ方向をぐるぐる回る、しきりに歯ぎしりをする(痛みのサイン)。
【目・鼻】片方の目だけ涙や目やにが多い、くしゃみや鼻水が続く。※片側だけの涙・目やにが続く場合、臼歯の歯根が鼻涙管を圧迫している可能性があり、歯科評価(口腔内・レントゲン)が必要です。
【体重】数日間で体重が5%以上減少している。(例:1kgの子なら50g)

🔵 青信号:様子を見ずに計画的に受診を!

急ぐ必要はありませんが、病気の初期サインかもしれません。かかりつけ医に相談し、予約を取りましょう。
【体重】数週間かけて、じわじわと体重が減り続けている。
【被毛】毛ヅヤが悪く、ボサボサしている、フケが多い、部分的な脱毛。
【排泄】慢性的にフンが軟らかい(軟便)。
【足】足の裏の皮膚が赤い、腫れている、かさぶたになっている(足底皮膚炎)。

🔍 最重要メッセージ
「赤信号」のサインは、「その日中に診てもらう」べき状態です。特に「食べない・出ない・張る・苦しそう」という4つの症状は、命のカウントダウンが始まっていると考えてください。モルモットは体にエネルギーを溜めておけないため、「半日様子を見る」という判断が、時に命取りになることを、どうか心に刻んでおいてください。

第2章|診断の精度を上げる「受診前の完璧準備リスト」

診察室での数分間の様子よりも、皆さんが見てきた24時間の記録こそが、的確な診断への最大の近道です。

🗒 情報メモを1枚にまとめる

このメモを獣医師に見せるだけで、口頭で説明するより遥かに多くの情報が、正確に伝わります。

項目記入例
名前・年齢・体重ポテト/2歳半/950g(今朝測定)
発症日時10月19日 朝7:00頃から牧草を食べなくなった
症状の経過午前中はペレットを数粒食べたが、昼から全く食べず。夕方からケージの隅でうずくまり、フンが小さく数も少ない。
食べ物(48時間)チモシー1番刈り、〇〇社ペレット、野菜(昨夜パプリカとレタス少量)。新しいおやつは与えていない。
飲水量給水ボトルの水の減りが、いつもより明らかに少ない。
排泄フンの写真あり。尿の色は普段通りだが、回数が少ない。
飼育環境室温23℃、湿度55%。床材や洗剤の変更はなし。
同居の個体同居のチップは食欲・フン共に正常。
これまでの病歴1年前に不正咬合の治療歴あり。
現在の投薬などビタミンCのサプリメントを毎日与えている。

💩 フンと尿を採取する

フン: 採取後2時間以内の新しいものを2〜3個、乾燥しないようラップかアルミホイルで包みます。
尿:ペットシーツに染みたものでも構いません。その部分を切り取り、チャック付きのビニール袋に入れましょう。
保管: 夏場は短時間だけ保冷バッグへ(凍結はNG)、冬場は常温で持参してください。

☎️ 病院に電話をかける(30秒で伝わる要点)

緊急時に慌てないよう、伝えるべき要点を頭に入れておきましょう。
「お世話になります。モルモットの急患のことでお電話しました。2歳の男の子で、体重は950gです。今朝から全く食べず、フンも出ていません。お腹が張って呼吸が少し速いようです。歩き方がおかしい動画も撮ってあります。これからすぐに伺いたいのですが、可能でしょうか?」
この伝え方で、病院側は緊急度を一瞬で判断し、受け入れ準備を整えることができます。

持ち物の最終チェック

  • まとめメモ(時系列)
  • フン・尿(可能なら新鮮)
  • いつものペレットや牧草の銘柄写真(成分表示)
  • 診察券・保険証(加入時)・身分証
  • 支払い手段(緊急は検査・処置で高額になりやすい)
  • 必要に応じて検査・鎮静・入院の同意が求められます。不安点は事前に質問してください。

第3章|ストレス最小限!移動とキャリーの「正解」セッティング

体調が悪い時の移動は、モルモットにとって大きな負担。最高の環境で、安全に病院へ連れて行ってあげましょう。

🧺 キャリーの中身チェックリスト

アイテム 目的・理由
□ タオルやフリース 滑り止めと保温。モルモットが足元を安定させられるように。
□ いつもの牧草をひとつかみ 慣れた匂いで安心させる効果絶大。不安な時に口を動かすことで落ち着きます。
□ 小さな隠れ家 布製の袋や牧草トンネルなど。暗くて狭い場所はモルモットの避難所です。
□ 少量の葉野菜 レタスやパプリカなど。移動中の水分補給と、精神安定剤の役割を果たします。
□ 給水ボトルは原則NG 水漏れで体が濡れると、低体温症のリスクがあります。長時間の待ち時間が想定される場合のみ、事前に水漏れがないかを確認したボトルを、監視下で短時間だけ設置します。取り付け後はノズル先端を指で数回押し、“実際に水が出る”ことを必ず確認します。

🌡 温度管理の鉄則

夏(目安24〜26℃): 凍らせたペットボトルや保冷剤をタオルで何重にも包み、キャリーの外側に固定します。キャリーの一部だけを涼しくし、モルモットが自分で場所を選べるようにするのがコツです

冬(目安18〜22℃): 使い捨てカイロをタオルで何重にも包み、キャリーの外側に固定します。低温やけどと酸欠を防ぐため、絶対にキャリーの中には入れないでください。

共通の注意: 直射日光、エアコンの直風、車内放置は絶対に禁止です。

🚗 車・公共交通機関での移動

車: キャリーは座席ではなく、足元など揺れの少ない場所に固定します。急発進・急ブレーキを避け、静かな運転を心がけましょう。

公共交通機関: 事前に利用会社の規約(手回り品料金、サイズ制限など)を確認します。キャリーの上に通気性の良い布をかけ、外からの刺激を遮断してあげましょう(通気口は必ず確保)。

多頭飼育のときは

  • 感染が疑われる症状(下痢・くしゃみ・眼鼻症状)がある場合は、同伴は避け、個体を分けて連れていきます。
  • 強い不安のある子で感染疑いがない場合、病院に確認のうえ落ち着いた相棒を一緒に(ストレス軽減)。

斜頸・旋回があるときの搬送

  • キャリー内にタオルを高く丸めて“体当たりの壁”を作り、頭部を支える凹みを作ると安全に運べます。
  • 目の刺激を減らすため上面は軽く覆い、通気を確保します。

第4章|病院では何をするの?診察の流れを知って不安を解消しよう

診察室で何が行われるかを知っておくだけで、飼い主様の心労は大きく軽減されます。

問診: 皆さんが準備した「情報メモ」がここで大活躍します。
一般身体検査: 体重測定、体温測定、聴診、お腹の触診、歯や皮膚のチェックなど、全身の状態を丁寧に確認します。

口腔内検査: 不正咬合が疑われる場合、安全のために短い時間だけ鎮静をかけ、口の奥にある臼歯を専用器具で詳しく観察することがあります。
レントゲン検査: お腹のガスの状態、歯の根元、心臓や肺などを評価するために行います。

処置と説明: 検査結果に基づき、点滴、注射などの処置が行われます。その後、獣医師から病状と今後の治療方針、ご自宅でのケアについて詳しい説明があります。疑問点は残さず、全て質問しましょう。

💡 覚えておくと安心なこと

  • モルモットの診察に絶食は不要です。病院から特別な指示がない限り、普段どおりで来院してください(ただし出発直前の“ドカ食い”は避ける)。
  • 診察や処置の際、モルモットが暴れると危険です。体を安全に支える「保定」は、獣医師や動物看護師にお任せしましょう。

第5章|診察後が本当のスタート。自宅での「正しいケア」と「投薬のコツ」

処方された薬を確実に与え、モルモットが安心して回復に専念できる環境を整えることが、飼い主様の最も大切な役割です。

🏠 帰宅したらまず安静に

ケージに戻したら、2〜3時間はそっとしておいてあげましょう。新鮮な牧草と水を用意し、静かで少し薄暗い環境でゆっくり休ませてあげてください。

💊 確実に飲ませるための投薬のコツ

保定: 椅子に座り、利き手ではない方の膝の上に、モルモットのお尻を乗せ、背中を自分の体に預けさせます。優しく腕で包み込むようにして安定させます。
投薬: シリンジの先を、口の正面からではなく唇の脇(歯のない隙間)からそっと差し込みます。

注入: 0.1mlずつ、モルモットがごっくんと飲み込むのを確認しながら、ゆっくりと薬を注入します。焦りは禁物です。

注意: 人の鎮痛・解熱薬(市販NSAIDs 等)や人用整腸剤の自己投与は禁止。必ず動物病院で処方された薬のみ使用してください。

アドバイス

  • 抗生剤と整腸剤が処方された場合、獣医師の指示があれば、効果を高めるために1〜2時間ずらして与えましょう。処方内容により例外があるため、自己判断で時間を変えないでください。
  • どうしても嫌がる場合は、ごく少量の無糖のリンゴや野菜のピュレに混ぜる方法もありますが、試す前には必ず「〇〇に混ぜても大丈夫ですか?」とかかりつけの獣医師に確認してください。自己判断は危険です。

🍽 強制給餌(必ず獣医師の指導のもとで!)

食欲が戻らない場合、消化管を動かし体力を維持するために行います。誤嚥性肺炎のリスクがあるため、必ず指導を受けてからにしてください。

手順: 専用フードか、ペレットをぬるま湯でふやかしたものを太めのシリンジで吸い、投薬と同じ要領で口の脇からゆっくりと与えます。

量の目安(参考): 体重1kgあたり1日に50〜80ml程度を、4〜6回に分けて与えます。必ず獣医師の指示量を守ってください。

禁止事項: 鼻や口から吹き出したら即中止。ぐったりしている時・呼吸が速い時・明らかな腹部膨満・むせがある時は自宅で行わず、当日再受診してください。

受診後24〜48時間の観察メモ(再診トリガーの目安)

  • 食べ始めた時刻/牧草量(大・中・小)
  • フンの数と大きさ(写真)
  • 水の減り具合(おおよそ)/尿の色・回数
  • 呼吸(普段より速い/変わらない)
  • 体重(同じ時間に1日1回)
  • 投薬できた量・時刻/吐き戻しの有無
  • 気になる仕草(歯ぎしり・うずくまる等)

 → 2項目以上悪化、または体重が連日10g以上減少再診基準です。

第6章|回復期のサインと未来のための健康管理

治療が終わっても、本当の健康管理はここから始まります。

🩺 再診が必要な時(すぐに病院へ連絡!)

  • 薬を飲んでも、食欲が戻らない・フンが出ない。
  • お腹の張りが再び強くなった、呼吸が荒い。
  • 投薬後や強制給餌後にぐったりしてしまった。
  • 体重が連日10g以上減り続ける。

📆 回復期のポイント

  • 少量でも、自ら牧草に口を伸ばし始めたら、回復への大きな一歩です。
  • 体重測定は1日1回、同じ時間に続け、体重が増加に転じるかを確認します。
  • 食事は牧草中心に戻し、ペレットや野菜はフンが安定してから少しずつ増やします。
  • 1週間ほどは部屋の温度・湿度を安定させ、静かな環境を維持します。

🤝 かかりつけ医を持つことの絶大なメリット

元気なうちからモルモットの診察に慣れた病院を見つけ、半年に一度の健康診断を受けること。これこそが、最高の病気予防です。かかりつけ医はあなたのモルモットの「普段の状態」を知っているため、いざという時の診断が格段に速く、正確になります。
緊急時の連絡先(夜間・休日)もメモにして、ケージ付近に貼っておきましょう。

第7章|まとめ ― 家族としてできる最善の備え

このガイドの要点を、最後にもう一度。

  • 「食べない・出ない・張る・苦しそう」=即受診。
  • 症状・食事・環境・体重を1枚のメモにまとめる。
  • 移動中は保温・保冷と静けさを確保する。
  • 帰宅後は静かに休ませ、投薬と食事の管理を徹底する。
  • 迷ったら電話。「少し早いかな?」くらいの行動が、小さな命を救います。

🐹 飼い主さんへ最後のひとこと

モルモットは、「昨日まで元気だったのに」と翌朝に急変することがある動物です。しかし、裏を返せば、飼い主様の早めの気づきと適切な行動があれば、驚くほど早く回復してくれる強い生命力も持っています。
あなたが最初の観察者であり、最初の救急隊員です。
あなたの準備と愛情深い判断が、その小さな、かけがえのない命を守ります。
このガイドが、皆さんと大切な家族の未来を照らす一助となることを、心から願っています。

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